大人の芸術講座 03


カルチャー教室向け技法編

 

静物画の遠近感

 

図A
図A

 2枚の静物画を描いてみました。

 絵についての僕のねらいを言うのは後回しにして、まず、皆さんで自分なりにこの絵はああだ、こうだと批評してみてください。僕の描写力不足はこの際、ちょっとどっかに措いておいて、2枚の絵の違いがどこにあるかを考えてみましょう。自分としては、良い方と悪い方という差が出るように描いてみたので、理由はともかく、パッと見て、いい方はどっちかを選んでみてください。(ただし、勉強のように100%正しい答えがある訳で

図B
図B

はなく、好みも加わるので、もし僕と違った方が良い絵だと思ったとしても、あまり気になさらずに)。

 

 では、正解発表します。正解は図Bです。

  理由はこうです。大まかな言葉で言えば、図Aはバラバラしてまとまりがない絵という印象があり、図Bはそれに対して一つの空間表現としてのまとまりを出そうとしている絵、ということになるでしょう。また、図Aの中の静物は、個々には立体感は出ているかもしれませんが、全体としては何だか平板に見えると思います。対して図Bは、個々の立体感は出ていないかもしれませんが、それに代わって作品全体を取り巻く空気のようなものを少し味わうことが出来ると思います。

  

 では、この違いはどこから生まれるのか?

 答えは一つではないと思いますが、一番大きな要因があります。それは、「目線の高さの違い」です。図Aは、上から見下ろすように見ていますが、図Bはそれよりもかなり低い位置から静物を見ているのです。

 

 実は、皆さんの静物画の中には、図Aのような上から見下ろした視点で描かれた絵が数多く見られます。その原因は様々でしょう。モチーフを置いたテーブルの高さと、自分の座っているイスの高さと、両者の距離によって、たまたまそういう目線になってしまったという人もいるでしょう。(本当は、たまたまということが、あってはならないのですが)。また、モチーフをしっかり見ようとして、つい、体を乗り出して覗き込むようにしてしまった人もいるでしょう。また、低い目線で見ていたのにもかかわらず、形を間違って上から見下ろしたような形に描いてしまう人もいるかもしれません。(実は、このタイプの人は結構多いと思います)。

  理由はいろいろあるかもしれませんが、静物を描こうと思ってテーブルにモチーフを並べる時には、目の高さのこともちょっと意識して、いつもより低い視点から描くことを体験してみることをお勧めします。

 

 さて、とりあえず今回、僕が言いたかったことをだいたい言ってしまったので、スッキリしたのですが、ここまでの話では、まだ、何かモヤモヤして納得しにくいという意見もあるかもしれません。

 そこで、少し補足です。 絵で比べると主観性が加わるので、どうも客観性に欠けるのでなないか?と言う厳しいご意見もあろうかと思いますから、さらに写真を使って検証してみましょう。

 

写真1
写真1

 写真1、2は、公正さを求めるため、目の高さ以外は、モチーフも、その数も、配置もまったく同じにしています。同じモチーフでも目線を変えると、光景が一変するのがよくわかると思います。

 写真1のように、上から見下ろすと、一つ一つのモチーフはよく見えますから、個々をしっかり描こうと思う人には都合のよい配置です。 

 写真2だと、かなり重なっているので、何となく

写真2
写真2

描きづらそうですよね。けれども、写真1の視点だと、モチーフをどう工夫して配置しても、モチーフはバラバラと点在した格好になってしまいますから、構図的なつながりを欠き、単に個々を説明しただけのような絵になりやすいのです。

 それに対して、写真2はモチーフとモチーフがつながり、形が連携しています。(モチーフの配置でいつも悩んでいる人は、配置で悩むのではなく、視点を変えてみましょう)。

 

 また、全体の奥行きという点から見ても、写真1はすぐに目線が床に突き当たってしまい、窮屈な感じがしますし、モチーフがばらけているので、モチーフ間の前後関係が感じるというより、上下関係のようにも見えてしまいます。それに対して、写真2は目線がモチーフの奥のバックまです~っと通っていけますから、それだけでも奥行きを感じますし、モチーフが重なっているので、モチーフの前と後ろという位置関係も説明しやすくなります。

 

 皆さんにお聞きします。風景を描くときと、静物を描くときでは、まったく違った観念をもってしまっていませんか? 風景を描くときは、全体のことをよく意識して、遠近感を出したいと考えますよね。なのに、静物画となると、そういう大きな心持ちがなくなって、手元にあるモチーフをただ写すことばかりに躍起になってしまっていませんか? 静物に対するときにも、風景に対するのと同じく、大局的な目をもって取り組んでみてください。


吉村宗浩ウヱブサイト