大人の芸術講座 07


カルチャー教室向け技法編

灰色の女

 

 今回ほど重要な話はこれ以上ないというくらい、重要な話をしたいと思います。これは水彩に限らず絵画全般に関わる重要問題なので、ぜひ皆さん読んでください。

(そんな重要や言う話やったら、何でもっと早うに言わんかったんじゃと怒られそうですが、何せ急に思いついたものですみません。)

図1
図1

  というわけで、皆さんが作品を制作した時によく言われる感想を分析してやっと解ったのです。皆さんがいちばん陥りやすい落とし穴をとうとうつかみました。何かと言いますとそれは、絵を描くとき、「調和のバランス」といった絵画全般に関わる問題が後回しにされやすく、個別の描写にどちらかといえば関心が向かっているのではないかという点です。

  例えば、「桜の木がうまく描けない」とか、「海の波の様子をどのようにすれば?」とか「陰影のつけ方がわからない」など、これらは全体よりも個別の描写に向かっていることを臭わせています。しかし、個別に一つのモチーフがうまく描けたとしても、それでいい絵になるとは限らないのが絵の最も難しいところ。

図2
図2

要は「調和のバランス」。全体の絵のまとまり具合をしっかり調整していく作業が大事なのです。

 そのために私たちはどうすればよいのでしょう。 まず、それを人物で見てみます。

 図1。白い画用紙に女性の顔を描きました。この時点では肌の

色なんかもわりとしっかりと塗れているなと感じられたし、全体の調和もとれているなと思っていました。しかし、それはあくまでも背景が白いことを前提としたところの調和だったということを忘れてはなりません。 さて、ここからおそらく多くの人がバックの色を塗ろうとしますが、バックに色が入ったら、そこでまた全体の色の調子が乱れるのだということを覚えておいてほしいの

図3
図3

です。顔の右半分の陰の色を見てください。図1ではまずまず陰の暗さを塗ったつもりでしたが、図2ではバックの色が暗くなったことで、頬の陰の色が薄れたように見えていました。(頬の陰は図1と図2で変えていません。)そこでもう一度、顔に手を加えて、バックの濃さとの調整をしていきます(図3) 。

 色の印象は周りの色との関係によってずいぶん違ってきますから、顔を描き終わったと思ってほったらかしにしてしまうのでは、全体の調和を図ることはできません。おそらく僕の予想では、一つのところを描き終わってから次に移るという描き方の人がかなり多いのではないかと思いますが、いかがでしょうか?

心当たりのある人は、絵を描くときの手順のことにもよく心配りしながら、進めるようにしてください。

 

 そういう意味合いも含めて、静物の作例も作ってみました。

  図4はモチーフを一つ一つ個別に仕上げていった例です。一つ描いては次に移るというやり方です。個別に見ると、写真に写っているような、それぞれのモチーフに特有の特徴は出せていると思います。しかし、全体をつなげて見てください。

図4
図4

青リンゴと赤リンゴが重なっているところでは、青リンゴのほうが影ができて赤リンゴより暗くなっているのに、個別に仕上げると、そういうモチーフとモチーフとの色のつながりを見落としやすくなってしまいます。そうなると個々にはうまく特徴が出ても、全体としては薄っぺらいものになる可能性が高くなります。

 図5は作品全体を少しずつ、暗い色のほうから色付けしていきました。まだ途中段階ですが、この手順を見てほしかったのです。個々にはまだ不十分ですが、全体の調和は図りやすくなります。

図5
図5

 

 19世紀の巨匠ドラクロワの言葉にゴッホは感銘を受けたそうです。

「私は灰色を使って美しい女性像を描くことができる」

この言葉は、色とは周りの色との組み合わせ次第で、いくらでも美しくもなり、逆に汚くもなるということを教えてくれています。


吉村宗浩ウエブサイト