大人の芸術講座 09


カルチャー教室向け技法編

 

テーブルにはモチーフの何倍もの奥行きがある

 

 絵画の何をもって良しとするのかは、人によって感性や考え方の違いがあるので、例えば今、この作例1.2を挙げてどちらが良いかを聞いても、おそらく人によって意見は分かれるでしょうから、あえてここでは2枚の優劣はつけないでおきます。しかし、自筆すべきは作例1では主題であるカップと壺を輪郭線を除いては、まだ何も描いていないと言うことです。その点を差し引いて見ておいてください。

 時間をかけて立体感や特徴を描き出した作例2と比べても、何ら見劣りするものではないし、場合によっては作例1の方が良く見える、という人もいるでしょう。

 2枚の絵の違いは明らかです。作例1はモチーフは何も描いていませんが、テーブルとバックはとても丁寧に描いてあります。それに対して、作例2はモチーフを立体感や細部まで描き込んでいますが、逆にテーブルとバックは色で無造作に埋めただけとなっています。

 みなさんの絵を拝見すると、多くの絵がモチーフ偏重になっていて、「モチーフさえ何とか感じが出せれば」という思いに描かれているとすれば、作例1は「モチーフはそんなに必死に描かなくてもいいのだ」とこれまでの絵の捉え方を、根本的に変えるものになるかも知れませんね!

 しかし、今回の主旨はモチーフを描かなくていいというところにあるのではなく、テーブルとバックが、絵の成立にいかに重要な役割を担っているのかを知っていただくことにあります。絵が成立するための要素というのは、構図、色彩、立体感といろいろあると思いますが、その中でも大事だと思うのは、写実絵画にあって奥行きを表現するところにあると思います。平らな紙の上にあたかも3次元の空間が広がっているように見える。それこそが写実絵画に強いリアリティをもたらしてくれるのです。さて、そうだとすれば、物理的に考えて見てください。カップや壺の立体感(厚み)は、たかだか10cm程度でしょうから、もしそれらをうまく表現できたとしても、それだけ分の奥行きが出せたことにしかなりません。しかし、テーブルはモチーフの前にも後ろにも広がっていますから、うまく表現しさえすれば50cmくらいは奥行きを感じさせられるでしょうし、バックに至ってはさらに奥へと広がっている訳です。

 次は実践といきましょう。今回はテーブルの描き方に絞ってお話しようと思います。作例1を見てください。まず筆の使い方ですが、できるだけ横方向へ筆のタッチを使っていきます。そうすると自然と横方向への微妙な変化が生まれるので、それがテーブルの奥行き感を引き出してくれます。それから、テーブルにできたモチーフの影の形も大切な要素で、作例1の影の形だとテーブル面が奥へいく感じを受けますが、作例2の影の形だとテーブルが起き上がって見えています。こんなところも気を配りたいところです。また、モチーフの底部にできる1ミリにも満たない隙間にできる影は、テーブルが奥へと向かう面であること、モチーフは直立した面であることを、そこで区分けする大事な部分だと思います。最後にテーブルの輪郭をやや左上がりに設定していることも見逃さないでください。斜め方向の線は水平線よりも奥行きを感じさせ易いのです。今、カップよりも壺の方が少し奥にあって、2つのモチーフは全体として右上がりに配置されていますから、テーブルをその逆の左上がりに設定することで構図を安定させるという働きも考慮しています。

 テーブルをどのへんまで描くかも、気を使いたいところです。一般的にはモチーフを見ている視点と関係づけます。作例3を見ると、作例1よりもカップの口の部分が広く見えていて、上から見下ろしているのがわかると思いますが、そういう時はテーブルの位置も自然と高い位置に上がります。しかし、作例1のようにモチーフを低い位置から見ているような時は、テーブルの線も低い方が自然で、これを作例2のように高いところまでにしてしまうと、テーブルの奥行きが感じにくくなります。

 最後に、テーブルの色を塗らない場合については、テーブルの影が唯一、テーブル面を感じさせる要素となりますから、たかが影くらいには思わず、しっかりと自然な形と色とで影を描くように心がけてください。自然の法則として、やはりモチーフの形に近い所ほど影は暗く、離れるほど薄くなっていきますし、影の輪郭は少しでもふわっとぼかした感じになるとますます自然に見えるでしょう。そして、色は個性のない色の方が良いです。